連載コラム【お金の世界の歩き方】
〜第38回 首相交代とお金の世界〜
先生
「花子さん、最近、日本の政治で大きなニュースがありましたよね」
花子
「はい。安倍総理の辞任のニュースですよね」
先生
「その通りです。では、総理辞任のニュースを受けてマーケットがどのように動いたか、チェックしてみましたか?」
花子
「すみません、そこまで気が回りませんでした。漠然と安倍総理が辞めるんだなぁ、と思っただけです」
先生
「政治も金融の世界に影響を与えるケースがあるのです。特に、首相交代には注意をしなくてはなりません」
花子
「わかりました。政治のニュースも気を付けるようにします。今回は安倍総理が長期政権だったから余計に影響があるということでしょうか?」
先生
「長期政権の影響ももちろんありますが、まずは辞任の発表のあった日のマーケットの動きを確認してみましょう」
花子
「お願いします」
先生
「辞任の発表のあった日は朝から堅調な展開で株式市場は取引されていました。しかし、午後2時過ぎに『安倍総理が辞任を固めた』というニュースが伝わると、株式市場は大きく下落しました」
花子
「えっ、そんなに影響があったのですか。どれくらい値下がりしたのですか?」
先生
「日経平均株価でみると、一時的には前日比600円以上の値下がりとなりました」
花子
「結構な下落だったのですね」
先生
「そうですね。首相交代はマーケットに影響を与える、ということは覚えておいてください」
花子
「はい、覚えておきます。ちなみに、今、アメリカで大統領選挙が行われていますが、海外でも同じことが言えますか?」
先生
「もちろんです。海外でも株式市場や為替市場に影響が出ます。2016年のアメリカの大統領選挙の時には、ヒラリー候補が優勢という前提で世の中、特に金融マーケットも進んでいましたので、トランプ大統領が勝利した時には株式市場も為替市場も大きく乱高下しました」
花子
「では、今回のアメリカの大統領選挙も接戦と報道されていますので、その結果によってはマーケットに大きな影響があるということでしょうか?」
先生
「はい、そのように考えられます。アメリカは世界のリーダー的な存在であるとともに、ドルは世界の基軸通貨でもあるので、その影響は大きいのです。今回のアメリカの大統領選挙も接戦ですので、目が離せません。では、マーケットはこうした政治の動きのどのような点を気にするのかわかりますか?」
花子
「何を気にする、ですか?うーん、総理大臣が変わるといろいろなモノが変わるから…かなぁ」
先生
「正解に近いのですが、惜しいです。まず、総理大臣が変わることで今までの経済政策が維持されるのか変更されるのかなどを気にします。これは景気に影響を与えますからね。もちろん、それを実行する力のあるリーダーが政権の運営者なのか否かにも注目が集まります」
花子
「ニュースで観ただけですが、菅総理は基本的には安倍内閣の経済政策を引き継ぐのですよね」
先生
「はい、そのようですね。ただ、気になるところは、アベノミクスの成果というものをきちんと評価をした上で決めないといけないのではないかな、とは思います。例えば、アベノミクスの中では『マイナス金利』を導入して4年になっています。金融の世界で金利をマイナスにしないといけないような事態を、何故4年も続けないとならないのか、こうしたところもきちんと検証しないといけないと僕は思っています」
花子
「なるほど、ただ単に継続すれば良いということではないのですね。菅総理は携帯電話料金を安くする、と私たちの身近な経済の話はしてくれていますよね」
先生
「たしかに、身近な話を分かりやすく説明してくれていますが、その他の経済運営についてもその評価と今後の将来像をきちんと観察する必要があるのです。今お話ししたように、現在の政策が続くことが分かると安心感が広がります。逆に、今後の政策に嫌気が差しているのであれば、マーケットは下落します」
花子
「まるでマーケットが意見をもっているようですね」
先生
「そうとも言えますね。安倍総理も株価の動きを気にしたように、マーケットも一つの意見を持っているのかもしれませね」
花子
「今回はどうだったのですか?」
先生
「今回は辞任を受けて大きく下落したものの、その後は落ち着いた動きを見せています。特に次の総理大臣も情勢からみて菅官房長官(当時)にほぼ決まりという状況で進んでいたので、マーケットでは『織込み済み』という状態になりました」
花子
「織込み済みというのはどういうことですか?」
先生
「多くの人が一つの予想が実現する確率が高いであろうと思い込むことで、実現する前から実現することを前提として動くことを言います。ですので、その予想が実現した時にマーケットは大きく反応することはないのです」
花子
「なるほど。であれば、菅総理が選出された時にはマーケットは大きくは反応しなかったのですか?」
先生
「はい、ほとんど反応しませんでした」
花子
「マーケットは不思議ですね。今度はいよいよアメリカの大統領選挙が注目なのですね」
先生
「その通りです。マーケットが大きく動くことも考えられるため、注目しないといけませんよ」
花子
「そうですね!政治のトップが交代するのも、金融の世界に大きな影響があるということがわかりました。ありがとうございました」
『武蔵野 花子』プロフィール
埼玉県内に住む33歳の女性。
パートタイムで働いており、家族は会社員の夫・長女(小学校1年生)・長男(幼稚園)がいる。最近よくママ友と子供の教育費や、家の購入について話すことが多く、これからのお金の使い方について、どうすればいいのかわからず悩んでいる。
『川口先生』プロフィール
証券会社や銀行を経て、現在は金融ジャーナリストとして活躍している。武蔵野家の近所に住んでいて、悩める花子に対しお金についていろんな角度から話をしてくれる。
趣味はスポーツで、ゴルフが得意だそう。また、社会人になってから始めた空手も黒帯である。