もしもの安心 エンディングノートと遺言

エンディングノートと遺言って同じなの?

終活の必須アイテムに

終活≠ェ大きな話題を集めています。終活とは、自分の万一に備え、元気なうちに身の回りの整理をしておくこと。最近では、残りの人生を前向きに生きるための活動全般を指す言葉として、その意味合いが広がりつつあります。テレビでも紹介されていますし、巷では終活セミナーも数多く開かれているので、ご存じの人も多いでしょう。

万一の備えとしては「遺言」が有名ですが、ここ数年は、「エンディングノート」の人気も高まっています。どちらももしも≠フことがあった場合、自分の希望や家族への想いをのこすことができる大切なメッセージです。でも両者の違いについて、しっかり理解している人は案外少ないのではないでしょうか?

まずエンディングノートは、主に終末期以降の様ざまな万一に備えて、自分の願いや家族への想いを書き留めておくことができる覚え書きのことです。

たとえば、「延命治療が必要になったらどうしてほしいのか」「葬儀には誰を呼んでほしいのか」「遺品はどう処分したいのか」「財産はどう分けたいのか」―といった希望を書き記したり、長年人生を一緒に歩んできた家族に、感謝の言葉を添えることもできます。

こうしたメッセージや情報をエンディングノートにのこしておけば、家族が介護の問題や相続に直面した時も、その対応で迷うことが少なくなるでしょうし、何より、本人の意思を尊重して対応できる点に、安心感を持ってくれるはずです。

一方の遺言は、本人が築いた財産の行方について、亡くなる前に意思を形にし、死後にその実現を図るためのものです。エンディングノートとは違い、法的な効力を持つ分、厳格な方式に基づいて作成する必要があります。

ノート、遺言それぞれにちゃんとした役割

ただ、そんなエンディングノートや遺言の有用性とは裏腹に、利用者はまだまだ少ないようです。

右のグラフは、シニアを対象にしたエンディングノートや遺言に関するアンケート結果ですが、エンディングノートをすでに「書いている」人は女性の場合でもわずか8%。遺言にいたっては、男性でも2%にとどまっています。遺言の場合、利用対象がある程度限られるので、この割合はどうしても低くなりますが(詳しくは後ほど)、それでも注目度の割には意外と少ないというのが、率直な印象かもしれません。

下のグラフは、シニアを対象にしたエンディングノートや遺言に関するアンケート結果ですが、エンディングノートをすでに「書いている」人は女性の場合でもわずか8%。遺言にいたっては、男性でも2%にとどまっています。遺言の場合、利用対象がある程度限られるので、この割合はどうしても低くなりますが(詳しくは後ほど)、それでも注目度の割には意外と少ないというのが、率直な印象かもしれません。

ただし、実際にエンディングノートや遺言を書く際には、ちょっとしたつぼ≠知っておく必要があります。最低限の決まりごとを理解せずに話を進めても、最悪は、いざという時に役に立たない可能性もあるのです。

次から、エンディングノートと遺言それぞれの機能と特徴を確認していきたいと思います。両者の違いを理解したうえで、使いどころを考えていきましょう。

エンディングノートを知る

介護、葬儀、相続、現在の財産状況など

エンディングノートの書き方に、これといったルールはありません。書店では様ざまなタイプの商品が売られていますし、市販の大学ノートにイチから書き始めても構いません。自分が伝えておきたいことを整理し、時には家族への想いを添えながら書き綴ればいいだけです。

ただ万一の際、家族が困らないようにすることが大きな目的ですから、エンディングノートに盛り込む内容は、ある程度整理しておく必要があります。生前に関する事柄であれば、認知症を発症した場合や介護が必要になった場合にどうしてほしいのか、そのお金の準備はしてあるのか。この他にも、終末期の医療や延命治療に対する希望などがあるでしょう。

また亡くなった後でしたら、葬儀の方法や参列してほしい人の名前、どこのお墓に入りたいのか、そして、財産は誰にどう引き継いでほしいのか、などが中心になると思います。この他、現在の預貯金の詳細や契約中の保険・クレジットカードの内容、もし借金があったり、誰かの保証人になっているのであれば、それも大切な事項です。お金の預け先や保険証券の番号、連絡先を明らかにしておけば、死後の手続きを行う家族にとって、とても助かる情報になるでしょう。

書店で販売されているものであれば、記載しておくべき内容がひと通り網羅されていますし、項目別に整理されているので、自分で深く考えなくても、必要な内容を書き置くことができます。この他、終活セミナーで参加者に無料で配布したり、インターネットから印刷できるものもあるので、自分に適した1冊を選んでみてください。

便利な分 手抜きの心配も

ただ実際にエンディングノートを書き始めると、意外と手間がかかります。自分の財産といっても、その全体像は漠然としている人が多いでしょうし、万一への希望を書き留めるにしても、初めて考える内容が多くイメージしづらいこともあるでしょう。

とりわけ市販のエンディングノートは、選択肢が用意され便利な半面、準備不足に陥りがちなので気をつけたいところです。たとえば葬儀の「遺影」がその1つ。後日、写真を探したり、撮影する機会が十分あるにも関わらず、「準備していない」という項目にチェックを入れて済ませてしまう人が多いそうです。できるだけ具体的に書くことはもちろんですが、記入しただけで安心し、その後のフォローを怠ってしまうミスも避けたいところ。伊藤さんのアドバイスも参考に、エンディングノートの効用や注意点を再確認してみてください。

インタビュー エンディングノートプランナー養成協会事務局長 伊藤友勝さん

いとう・ともかつ

一般社団法人「エンディングノートプランナー養成協会」事務局長

亡くなった実兄が、家族全員にメッセージをのこしてくれことをきっかけに、エンディングノートの重要性を認識。2014年12月にはエンディングノートの作成をサポートする「エンディングノートプランナー養成講座」を開講。主婦層を中心に、その普及に努めている。

充実したシニアライフのきっかけに

エンディングノートには、葬儀や相続など万一に備えることができるメリットに加え、もう1つ大きな利点があります。それは、自分の現状を確認したり、これまでの人生を見つめ直すことで、残りの人生を大切に生きようとする気持ちになれること、つまり、シニアライフを充実させるきっかけとしてのメリットです。

たとえば、現状の財産が明らかになれば、生前中のライフプランが立てやすくなり、自分のために使えるお金がいくらくらいあるのかもはっきりしてきます。のこされた家族が困らないだけの金額を確保したうえ、なお資金に余裕があるようなら、それを趣味や旅行資金など、シニアライフを満喫するための用途にまわすことができますし、逆に不足気味なら、早い段階でお金の手当てを講じることも可能になります。またこれまでの人生を振り返るなかで、疎遠だった家族や親戚、友人に対する思いがこみ上げてくることもあるでしょう。エンディングノートをきっかけに関係の修復に努めれば、後悔の念にかられながら余生を過ごす辛さからも解放されます。シニアの中には「他界する直前に書けばいい」と考えている人もいますが、残りの人生を輝かせるためにも、できるだけ早めに書き始めることをお勧めします。

ただ実際、ノートを書くとなると、その作業を重たく感じる人も多いでしょう。でも、一気に書き上げようと欲張る必要はありません。書けるところから1つずつ埋めていけばいい、そんな気楽な気持ちで向き合ってみてください。また、友人と一緒に書いてみるのも手です。連帯感が生まれ、途中で挫折することも少なくなるでしょう。

エンディングノートの名前は知っていても、その役割をきちんと知っている人は意外と少ないのが現状です。この機会に、エンディングノートの機能とメリットをよく知っていただければと思います。今後の人生を充実させるためのきっかけづくりと考えれば、前向きに取り組めるはずです。

遺言を知る

相続では最優先

本人の死亡から葬儀を経て、いよいよ始まるのが「相続」。相続財産を確定させ、その財産を相続人間で分割する作業です。ではその一連の手続きで、最初に行われるのが何かご存じですか? 「遺言書」の有無の確認です。なぜなら、遺言に書かれている内容は、相続において原則、何よりも優先されるからです。

たとえば遺産を分ける場合、遺言がなければ、相続人間の遺産分割協議による合意内容で分割するか、民法で定める法定相続のルールに則って分配されます。でも遺言をのこしていれば、法的に故人の意思が尊重され、原則、望み通りに財産を分けることができるのです。一般的なエンディングノートにも、財産分けに関して記載する項目が設けられていますが、あくまで自分の想いを伝えることしかできません。

また遺言があれば、法定相続の枠を越えて、財産の受取人を指定することもできます。一例を見てみましょう。「介護でお世話になっている、息子のお嫁さんに財産を分けてあげたい」と考えている高齢者の方も多いでしょう。でもこの場合、お嫁さんは法定相続人ではありませんので、財産を1円ももらうことができません。でも、遺言に財産分与の意思を書いておけば、お嫁さんに財産を譲りわたすことができます。

なお遺言には「付言」といって、その財産分けに至った理由や気持ちを書き記すこともできます。こうした機能を上手に活用し、のこされた家族への配慮も考えておきたいところです。

書き間違いは許されない

先にお話しましたが、遺言には法的な効力が備わっている分、その効力が認められる範囲や遺言の書き方は法律で厳格に定められています。そのため、遺言の書き方に少しでも間違いがあると、その部分は基本的に無効となり、遺産分割協議の対象となるので注意が必要です。

さて、その遺言の書き方ですが、一般には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの方式があります(上の囲み)。この中で一番確実なのは、公正証書遺言です。公正証書遺言は、証人2人の立ち会いのもと、本人が公証人の前で遺言の内容を口述し、それをもとに公証人が遺言書を作成する方法です。

そのため、遺言の内容に不備が生じる可能性はありませんし、作成した遺言は公証役場で厳重に保管されるので、第三者に破棄されたり改ざんされる心配もありません。また、どんな内容の遺言にするか迷った時でも、公証人に相談することができるほか、家庭裁判所の*検認(確認)手続きも不要なので、すみやかに相続手続きを始めることも可能です。

自力で遺言書を仕上げる自筆証書遺言に比べるとコストはかかりますが、その確実性から多くの人に利用されています。ただし、お住まいの地域によっては、作成までに1ヵ月以上かかる場合もあるので、事前によく確認しておくことが大切です。

*相続人全員の戸籍謄本などが必要で、手続きには数ヵ月かかることもある。

使い方のポイントは?

家族への思いやりも忘れずに

ここまで見てきたように、エンディングノートと遺言は目的が同じようでも、その機能は大きく異なります(下の囲み)。

改めてその特徴を整理すると、エンディングノートは生前から死後の希望まで幅広く、しかも自由に記載できます。家族が万一の手続きで困らないよう、備忘録としての役割も備わっているほか、手持ち財産などの現状を知ることで、より充実したシニアライフを過ごすきっかけになる点も、見逃せないポイントです。

それに対して遺言は、主に相続時の遺産分割でその効力を発揮し、とくに法定相続分と異なる財産分けを考えている場合には、有効な手段です。

いずれにしても、どちらか1つ用意すればそれで万全というわけではありません。生前、死後にかかわる希望を整理し、家族に伝える点ではエンディングノートが有効ですし、その中で財産を希望に沿って確実に譲り渡したい場合には、あわせて遺言の準備も必要です。

そしてもう1つ、場合によっては自分の希望を家族に伝え、その考え方に食い違いがないか、話し合っておくことも大切です。

たとえば終末医療の場合、本人は「家族に迷惑をかけたくない」と考えている一方で、家族は「少しでも長生きしてほしい」と願うケースが多いといいます。エンディングノートで、事前に本人の気持ちを知ることができたとしても、家族としてはどちらを優先すべきか、きっと判断に困るはずです。

たとえ、エンディングノートと遺言が、生前、死後の備えで優れているといっても、その土台は、家族とのコミュニケーションによって築かれます。その点もぜひ、忘れないでください。

インタビュー FP・明石久美さん

あかし・ひさみ

明石シニアコンサルティング代表、CFP®、葬祭アドバイザー ほか

エンディングノートや遺言書の作成、相続対策など、複雑な老い支度≠サポート。さらに、専門家と提携した相続手続きや死後整理なども手がけ、生前〜死亡〜死後の生活やお金に関わる悩みや相談を総合的にアシストしている。この他、ラジオ出演、書籍出版、業界誌などへの執筆や全国での講演(年間100件以上)も多数

エンディングノートと遺言作成上のつぼ

エンディングノートと遺言が、終活の高まりとともに注目を集めていますが、何のために作成するのか、その目的をしっかり確認したうえで、利用することが大切です。エンディングノートの目的は、生前の希望や万一の様ざまな手続きで家族が判断に困ることのないよう、必要な情報をのこすことにあります。一方、遺言の目的は、財産を遺言者の希望に基づいて、確実に分けることにあります。その点を理解できれば、両者をどう使い分ければよいか、容易に判断できると思います。個人的には、エンディングノートは終活の一環で作成し、遺言はあくまで相続対策のためのものと、割り切ってもいいとさえ思っています。

両者の特長がわかれば、その作成上のつぼ≠燉揄しやすいはずです。エンディングノートの場合は、家族に様ざまな行為をお願いするわけですから、本人と家族の希望を一致させておくことがベストです。そのため、エンディングノートの作成過程で、家族にその都度意向を確認したり、協力を求めるなど、一緒に仕上げる気持ちで臨むべきでしょう。一方の遺言は、財産分割が直接絡むため、家族の意向を聞きながら作成するのは難しいでしょうし、死後にのこされた家族の争いの火種にならないよう、慎重な判断も求められます。目先の相続だけでなく、二次相続のことも含めて、できれば専門家のアドバイスを参考にし、あらゆる面から総合的に判断することが賢明です。

なおエンディングノートや遺言は、一度書いたらおしまい≠ナはなく、その時々の状況にあわせた見直しが必要です。財産の総額は常に変化しますし、自分の希望や家族への想いも、時間の経過とともに変わることもあります。万一の際に、希望や想いが確実に家族に届くよう、エンディングノートの場合は、修正が必要な部分はその都度もしくは定期的に、遺言書の場合は前遺言を撤回して、再作成することをお勧めします。

(記事提供:ニッキンマネー2015年5月号 特集Ⅱ)

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