相続と贈与(後編)

贈与の基本を押さえよう

まずは相続税を確認しよう

今年1月の相続税、贈与税の大改正に伴って、「生前贈与」が大きな注目を集めています。相続税の課税強化が進むなか、本人が元気なうちに、子どもや孫に財産を譲りわたすことで、効果的に相続財産を減らすことができます。

2月の前編で見た通り、相続税の改正では、相続財産から差し引ける基礎控除が、従来の6割まで減ってしまいました。一方、贈与税では、子どもや孫に財産を贈与する場合、一般贈与よりも低い税率が適用される特例税率が新設されました。このほか教育資金や住宅資金など、特定の目的に絞った贈与の非課税枠が拡大する特例も、このほど延長が決まりました。

東京などの都心部では、法改正後、相続税の対象者が20%弱程度まで拡大すると見られています。まずは財産の総額を確認し、将来どれくらいの相続税が発生するのか、確認してみましょう。もしここで、税負担が見込まれるようなら、生前贈与の具体的な検討を始めてみてはいかがでしょうか。

「あげます」「もらいます」

ただ、ひと口に生前贈与といっても、課税時期や贈与する財産の種類などによって、いくつかの方法にわけられます。主なものは後ほど説明しますので、ここでは全体像を簡単につかんでおきましょう。

そもそも「贈与」とは、民法で定める贈与契約のこと。財産を譲る人(贈与者)の「あげます」、もらう人(受贈者)の「もらいます」というお互いの合意のもと、初めてその行為が成立します。そのため、贈与者の一方的な意思表示だけでは贈与とは認められず、あとで相続トラブルが発生する可能性もあります。贈与行為が成立すれば、受け取った財産の価額に応じて、贈与税を支払うしくみです。

その贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの課税方式があります。暦年課税は一般的な贈与の方法で、1年間に受け取った財産の合計価額から基礎控除の110万円を差し引いた残額に贈与税がかかります。

もう1つの相続時精算課税は、少し複雑です。本人の生前中は、贈与価額の合計が2500万円までは非課税ですが、相続発生時にその贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算します。つまり、贈与税の計算を相続時まで先送り≠キるしくみなので、相続財産そのものを減らす効果はありません。ここは注意しておきたいポイントです。しかも、いったん同制度を選択すると、財産を譲りわたした相手については、暦年課税に戻すことはできません。このため将来、相続税の発生が確実な人は、慎重に利用を検討したほうがよさそうです。

この2つが贈与税の基本ですが、これ以外にも期間限定の特例措置がいくつか設けられています。先ほどの教育資金や住宅取得資金贈与の特例がそれで、特定の目的で使う資金をまとめて贈与する場合に効果的です。

こうした点を踏まえて、以下から具体的な贈与対策を見ていきますが、実は生前贈与には、節税以外のメリットも兼ね備えています。FPの吉澤さんがそのポイントを解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

吉澤FP事務所代表 吉澤諭さん

よしざわ・さとし

吉澤FP事務所代表、1級FP技能士

住友信託銀行(現三井住友信託銀行)、あおぞら銀行などを経て、2014年4月に独立。相続に特化したFPとして、多数のセミナー・講演会講師をこなす傍ら、相続の実務プロ≠養成する「吉澤塾」も主宰する。

あげたい人に、確実にわたせます

「相続対策」には、@争族対策 A相続税納税資金の確保 B相続税対策の3つがあります。生前贈与は「相続税対策」として注目が集まりがちですが、本人の死後、のこされた家族が遺産分割で揉めるのを防ぐ「争族対策」、相続にかかる「納税資金の確保」を忘れてはいけません。相続税の負担軽減は確かに重要ですが、税対策ばかりに目が行き、いざ相続が発生したら揉めてしまった、納税する資金がない、と言うことがないよう十分注意してください。生前贈与について、この部分を意識される方は少ないと思いますが、ご家族の心配を払拭するためにも、しっかり覚えておきましょう。

生前贈与は、相続と違ってご自身の大切な財産を「あげたい人に確実にわたせる」メリットが魅力です。もちろん、遺言でも財産の分け方を細かく指定することはできますが、遺留分の問題もあり、ご自身の希望が100%反映される保証はありません。その点、生前贈与なら、あげたい人に財産を直接わたすことができますし、使い方を確認したり、より有効なお金の利用を受贈者に促すことも可能です。さらに、誰に贈与しても、相続税のような2割増≠フルールもありません(ただし子どもや孫以外へ贈与した場合、税率が異なります)。生前に、ご家族の理解を得ながら、スムーズに財産を移転できる。そんな生前贈与の効用は、とても大きいと言えるでしょう。

最近では高齢化が進み、ご自身が亡くなる頃には、子どもはすでに還暦を迎えているようなご家庭も多いと思います。せっかくの財産も、早い段階で移転を考えておかないと、家族が本当にお金を必要とする時に活かされない、なんてことにもなりかねません。ただ幸いなことに、贈与の方法は広がりつつあり、教育資金の一括贈与特例などは、孫のために財産を有効活用できるとあって、注目が集まっています。

生前贈与のメリットは、おぼろげながらもご存じの方が多いでしょうが、この機会に贈与の目的や基本的なしくみ、そして効果的な相続対策を再確認してみてください。

110万円の基礎控除 現金を譲りわたす

時間をかけて無理なく贈与

相続税対策の最もポピュラーな方法といえば、「年間110万円」の基礎控除枠を活用した贈与でしょう。とくに、現金や有価証券などの金融資産を多く保有している人は、このしくみを使って長期的に贈与を行うことで、相続税の負担を軽くすることができます。

1年間に贈与を受けた財産価額の合計から、基礎控除の110万円を差し引き、その残額に応じて贈与税を納めるシンプルなしくみです。1年間の贈与価額が110万円以下なら、贈与税は発生しませんし、申告も不要です。

またこの暦年課税は、受贈者ごとに適用されるので、たとえば祖父が子ども3人に110万円ずつ贈与すれば、年間330万円まで非課税枠を利用することができます。このため、早いうちから贈与を始めれば、非課税枠のメリットを享受しつつ、計画的に相続財産を減らすことができるわけです(右の図表)。

でも相続財産が多く、基礎控除の範囲内で贈与していると、時間がかかりすぎるという人もいるでしょう。そんな時は、思い切って基礎控除を超えた金額を贈与することも一考です。たとえば、将来の相続税の税率が20%と見込まれる場合には、贈与税の最低税率10%が適用される年間310万円の中で贈与を行うほうが、節税効果は高まります。

現金贈与は要注意

暦年課税は、手軽に財産を贈与できる手段として幅広く活用されていますが、贈与者のちょっとした誤解で相続時に思わぬトラブルが発生する可能性があります。とくに、現金を贈与する場合は要注意です。前にも触れた通り、贈与は贈与者、受贈者双方の合意のもとで成立しますが、実際の親子関係ではそうした認識が曖昧なケースが多いのです。また親子に贈与の認識があったとしても、子どもがそのお金を自由に使えない状況であれば、贈与と認められず相続税の対象となる場合もあります。

右の囲みに、ありがちなトラブル事例とその対応策をまとめました。こうしたトラブルを防ぐには、預金口座への振込など、あげた形跡≠ちゃんと残しておくほか、受贈者がいつでも自由に財産を利用できるような状態にしておくことが大切です。

特例も人気です
教育資金、住宅取得資金の贈与


どちらも延長が決まりました

通常の暦年贈与は、贈与した財産の使い道に決まりはありません。受贈者は、生活費の足しにしたり、遊興費に充てることもできます。でも、その使途を特定の目的に限定する代わりに、贈与税の非課税枠を大幅に拡大する制度も用意されています。その1つが、教育資金の一括贈与特例です。

この制度は2013年4月からスタートし、今年の12月末で終了する予定でしたが、このほど延長が決まりました。孫に対する祖父母の想いからか、その人気は高く、すでに10万人ほどが利用しています。

もともと教育資金については、必要の都度¢。与する場合には、いっさい贈与税はかかりません。でもこの特例を使えば、将来必要になる教育資金をまとめて贈与しても、一定の金額までは非課税になるので、使い勝手はかなりよくなったと言えます。また、教育資金といってもその対象は幅広く、学校の入学金や授業料のほか、習い事やそこで使う文房具なども、一部非課税が認められています。

基本的なしくみは、下の囲みの通りです。贈与したお金を教育関連資金に限定する条件で、子どもや孫1人につき、最大1500万円まで非課税になります。使い道や金額がちゃんとわかるよう、金融機関に専用の口座を設けて、そこから必要な教育資金を引き出す流れです。支払った教育資金は、領収書を金融機関に提出して管理します。一部金融機関では、学校などの納入先に直接お金を振り込んでもらうことも可能です。

なおこの特例の場合、贈与者がお金を譲りわたした後、3年以内に亡くなっても、相続税の対象とはなりません。自分の寿命を気にすることなく、いつでも大きな資金を贈与できる点も、うれしいポイントです。

そしてもう1つ、子どもや孫がマイホームを購入する場合の資金援助に対しても、非課税枠の特例が設けられています。こちらは、「住宅取得資金等の贈与特例」といって、最大2500万円(一般住宅の場合)までの資金贈与に、非課税措置が適用されます。教育資金贈与の特例と同じく、節税上の即効性が高い点が魅力です。

マイホームは、人生で最も高価な買い物と言われるだけに、その資金サポートを非課税でできるメリットは大きいでしょう。右の囲みを参照し、そのポイントをしっかり押さえてください。

保険の活用もあります
万一の遺言も忘れずに


相続税の非課税枠が有名ですが…

生命保険といえば、相続税を計算する際の非課税枠が有名です。生命保険の死亡保険金は、のこされた家族の生活保障としての役割から、「500万円×法定相続人の数」の金額を、死亡保険金から差し引くことができます。

また遺産分割対策としても、生命保険はとても有効です。生命保険には、保険金の受取人を指定する機能が備わっており、お金をのこしたい人に、確実に保険金が支払われます。さらに自分の死後、長男に自宅をのこしたいような場合には、他の相続人に死亡保険金をのこしてあげることで、円満な遺産分割対策としても活用することができます。

相続対策を考える際、こうした生命保険独自の機能を使わない手はありません。

もちろん、生前贈与を検討する場合でも、保険のメリットを活用することができます。

たとえば、「一度にまとまった現金を贈与すると、金銭感覚がマヒしてしまうのでは…」と心配する人であれば、子どもを契約者とし、ご自身を被保険者とした終身保険への加入を考えてみましょう。基礎控除の範囲内でお金を贈与し、それを子どもが生命保険料の支払いに充てれば、贈与税はかかりませんし、ご自身が亡くなるまで保険金も支払われません。もちろん、不慮の事故で突然亡くなったような場合でも、いつでも契約した金額をのこすことができます。

さらにポイントは、節税効果が見込める点にもあります。今の方法ですと、契約者と保険金の受取人が一緒なので、相続税の対象とはならず、所得税(一時所得)として課税されることになります。

相続財産として相続税を計算する場合と、所得税として受け取る場合でどちらが有利なのかは、死亡保険金の金額などが関係するため一概には言えません。ただ、相続税の非課税枠を大きく超えて死亡保険金が支払われるようなケースでは、後者の方法で受け取ったほうが、より高い節税効果を見込める可能性があります。

付言で想いを伝える

最後に、遺言の効用にも触れておきましょう。厳密に言うと、これは生前贈与ではありませんが、本人が生きているうちに、しっかり準備することで、のこされた家族同士が争族≠ノ発展することを極力防ぐことができます。生前贈与の補完役として、この機会に確認しておきましょう。

吉澤さんのワンポイント(下の囲み)にもある通り、遺言で最も重視したいのは「付言」です。付言の記載は任意ですし、法的な効力もありませんが、自分の希望や家族への想いをより細かに伝えることができます。

ただし、遺言書の書き方には様ざまなルールがあり、不備があるとその部分は法的に無効になってしまいます。自力ではちょっと心配という人は、専門家が作成する「公正証書遺言」の活用をお勧めします。

再登場! 吉澤FP遺言のワンポイント

遺言のメリットも忘れずに!

遺言の種類は3つ

お客さまの遺言相談では、「付言を丁寧に書いてください」とお願いしています。それは、付言にご自身の想いや心情を家族にのこすことで、無用な争族を防ぐ有効な手段になるからです。その遺言を作成するに至った理由や背景を、家族へのねぎらいの言葉などとともに、しっかり書き留めてください。ただの「財産分け方メモ」にならないよう注意することが重要です。

ただ遺言も、残念ながら争族を完全に防ぐ万能なツールではありません。時が経てば、人の気持ちや生活の状況は変わりますし、もともと仲たがいしている家庭を和解させる効果も期待できません。そのためにも、一番大切にしていただきたいのは、日頃からのコミュニケーションです。常に、家族に気持ちを伝えたり、家族の声を聞いていれば、争族の心配を最小限に抑えることができます

(記事提供:ニッキンマネー2015年3月号 特集II)

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