相続と贈与(前編)

どう変わった?相続・贈与の改正点

4%から7% 都心部ではもっと

2013年から始まった一連の相続税・贈与税改革の大本命=A相続税の基礎控除がとうとう引き下げられました。2015年1月以降、相続によって財産を取得した場合、新しいしくみに則って、相続税を計算することになります。

では、どれくらい変わったのでしょうか? 下の図表はその計算例です。配偶者と子ども2人が相続する場合の基礎控除は、従来の8千万円から4800万円まで減ってしまいます。相続財産から差し引ける金額が減ったわけですから、それだけ相続税を納める対象者が増えることになります。

これまで、相続税が発生する対象は、死亡者全体の4%程度に過ぎませんでしたが、改正後は7%までアップするとみられています。さらに地価の高い都心部では、従来の10%弱から20%弱にまで広がる見込みです。故人ののこした住宅の場所や広さ、金融資産の多寡にもよりますが、これまで相続税とは無縁だった人も、対象となる可能性が出てくるわけです。

相続は厳しく贈与は緩やかに

今回の改正は、高齢者が持つ資産を早いうちに子どもや孫に移し、有効活用してもらうことも、その目的の1つとしています。そのため全体的にみると、相続税は厳しくなり、贈与税は緩和されました。

注目は、相続税・贈与税の税率変更です(下図表参照)。相続税の場合、2億円以上の大きな資産を相続した人の税率が細かくなったほか、最高税率が55%に引き上げられました。贈与税も最高税率は55%までアップしましたが、子どもや孫への贈与に特例税率が新設され、4500万円以内の贈与の税率は軽減されました。すでに約8万9千人(*)が利用している教育資金贈与の非課税措置や、相続時精算課税制度の対象範囲の拡大などとあわせ、贈与の利便性は高まったといえます。

ただ一方の相続税も、厳しくなっただけではありません。減税につながる緩和措置も導入されています。その1つが「小規模宅地等の特例」です。これは、一定の条件を満たした相続人が故人の宅地を引き継ぐ際、その評価額を最大80%まで減らせるしくみですが、その対象となる宅地の適用面積が拡大されました。また従来、この特例を利用できなかった一部の二世帯住宅の相続人も、評価減の措置が受けられるようになりました。

こうした改正点は、今後、生前贈与を検討する際や、相続時の節税対策を考える時には欠かせません。相続・贈与のしくみとあわせて、確認しておくことが大切です。

また、基礎控除の縮小が気になり、相続財産の総額が基礎控除を超えると必ず相続税が発生すると思っている人もいるようですが、それはちょっと誤解。たとえば、配偶者には大幅な税額控除が認められていて、配偶者の相続税額が1億6千万円、あるいはそれ以上であっても、相続財産が法定相続分以内であれば、配偶者に相続税はかかりません。

「うちは、そもそも相続税がかかるのかしら?」「相続税の手続きには、どんなものがあるの?」―、みなさんが抱く、そんな素朴な疑問。さあ、相続税のしくみをもう少し見ていきましょう。

手続きとタイミングを確認 相続のスケジュール

初めの3ヵ月が大切です

ある日、突然やってくるかもしれない「相続」。みなさんは、そのスケジュールや手続きをご存じですか?

左下の図表は、被相続人の死亡時から相続税を納めるまでの流れを表したものです。主なものを拾ってみても、これだけの手続きを丹念にこなしていく必要があります。相続人全員がそろわないと進まない手続きもあるので、なかなかしんどい作業です。

相続税を支払うまでの10ヵ月のうち、とくに大切なのは最初の3ヵ月間です。葬儀から始まり、遺言書の有無の確認、相続財産の調査、相続人の確定―など、諸々の手続きの多くはこの時期に集中します。どれもちゃんと期限が決まっていて、届け出が遅れたり、そのまま放っておくと、その後の相続に影響を及ぼすことがあるので、注意が必要です。

たとえば、被相続人が借金をのこしていたようなケース。そんな場合には、相続した資産の範囲内で負債を引き継ぐ「限定承認」や、相続自体をあきらめる「放棄」を選択することができますが、これらは3ヵ月以内に手続きを済ませる必要があります。それに、限定承認を申請する場合には、相続人全員で行う必要があり、誰か1人でも反対すれば認められません(相続の放棄は、個々の意思で決めることが可能です)。

この決定は一度行うと撤回できないので、時間をかけて遺産を調べたい人もいるでしょう。そんな時のために知っておきたいのが、限定承認や放棄を決める期間を先延ばしする方法です。これは、家庭裁判所に検討する期間の延長を申し立てることで、その理由に応じて裁判所が延長する期間を決めてくれます。

なお相続財産が、先に見た「基礎控除」の範囲内であれば、相続税の納付手続きは必要ありません。相続人の間で遺産をどのように分けるかを話し合い、実際に遺産分割を済ませれば、一連の手続きは基本的におしまいです(遺産分割でトラブルに発展した場合は別ですが…)。少し形式的ですが、話し合いの結果を「遺産分割協議書」として書面に残しておくと、その後のトラブル回避に役立ちます。

ただし、宅地などの不動産を相続した場合は、早めに財産の名義変更(所有権移転登記)を済ませましょう。

登記自体は義務づけられてはいませんが、それを行うことで不動産の所有権を第三者に主張することができます。これは忘れないでください。

相続税の計算は大きく3段階

一方、相続財産が多く、相続税の納付が必要な場合は、下の図表のような流れで進みます。計算の過程は少々複雑ですので、ここではポイントを押さえてください。配偶者と子ども2人が相続した場合を例に見ていきましょう。

ステップは、大きくわけて3段階。まず、@遺産総額から、相続税算出のもととなる「課税遺産総額」を確定し Aこの金額を法定相続人で相続したものと仮定して、全体の相続税額を計算します。その後、B実際の相続割合に応じて、先ほどの相続税額を各人に振り分ける段取りです。

注目しておきたい点はいくつかありますが、まずは「課税遺産総額」をはじき出す際、相続税の基礎控除とは別に、一定の控除枠が認められている点です。

代表的なのは、被相続人の借金や葬儀に支払った費用、墓地の購入費用などで、これらは相続財産から全額差し引くことができます。また、被相続人の死亡によって受け取った、生命保険の死亡保険金や死亡退職金も、「500万円×法定相続人の数」の金額分、控除することができます。ただその一方、被相続人が亡くなる前の3年間に行った贈与は、相続財産に加算されます。

そしてもう1つ、先に見た通り、配偶者の相続税額が大幅に優遇されている点も見逃せない点です。配偶者の相続税額が1億6千万円まで、あるいはそれ以上であっても、相続財産が法定相続分までなら、配偶者に相続税はかかりません。

ただ将来、この妻が亡くなり、子どもがその相続をする場合には、配偶者控除の適用がない分、納める相続税額が大きくなる可能性があります(「二次相続」と言います)。また、祖父母がのこした財産を、一代飛ばして孫が相続したり、兄弟が引き継ぐ場合などは、相続税額が2割増し≠ニなりますので、ご注意ください。

気になる相続手続きの費用は?

財産それぞれに異なった評価方法

ここまで読むと、そもそもどうやって遺産の価値を計算するのか、わからない人も多いでしょう。故人の資産を金額に換算できなければ、相続税を計算することはできません。それを調べる作業が、財産の評価です。

現金だけなら話は簡単ですが、自宅や土地を相続する人が多いでしょうし、株式などの有価証券がのこる場合もあるでしょう。ややこしいのは、財産の種類によって評価方法が異なり、しかもその算定に難しいケースがある点です。

ただ下の図表を見てもわかる通り、財産が自宅と預貯金程度なら、意外とシンプルに算出することができます。それ以外の評価方法も、国税庁のホームページに載っていますから、自力で取り組んでみてもいいかもしれません。その際は、相続税の支払いが発生するか否かを早めに見極めるため、自宅などの高額な財産から評価するほうが効率的です。なお財産評価は、被相続人が亡くなった日の「時価」で計算します。

自力か専門家への依頼か

とはいえ相続自体が、長い人生でそうはない経験でしょうし、精神的な余裕がない中で滞りなく手続きを進めるのは、やっぱり大変です。そんな時に心強いのは、税理士や行政書士など専門家の存在ですが、一方で費用負担も気になるでしょう。では、プロにお願いした場合、どれくらいの予算が必要なのでしょうか。自力で行う手間・費用との比較を考えるためにも、おおよその金額は把握しておきたいところです(下の図表)。

ひと口に相続手続きといっても、公的書類の作成や遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更など、その種類は様ざま。また公的書類の関係は行政書士、相続税の計算は税理士など、内容によって専門分野が異なるため、それぞれ別の専門家に依頼するのも厄介です。

そのため最近では、専門家同士が連携して相続手続きを代行する業者が増えており、そこに頼めば一切合財の段取りを引き受けてくれます。もちろん、基本は自力で手続きしつつ、煩雑な作業だけ依頼することも可能です。

「後編」では、今回の改正で緩和された「贈与」を中心に、その具体的な活用法を見ていきます。お楽しみに!

(記事提供:ニッキンマネー2015年2月号 特集II)

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