どうする?退職後の住宅ローン

ご存じですか?退職時の住宅ローン残高

じっくり考えると怖くありません?

仮に定年が60歳だと仮定して、「退職時に残っている住宅ローン、いくらくらいですか?」。もしこんな質問を受けたら…。

おそらく住宅ローンを利用する多くの人が、即答は難しいだろうと思います。

昔とくらべると、結婚する年齢が上がった分、子どもを持つ時期も遅れ、家を買う年齢も高くなりました。国土交通省の住宅市場動向調査(2013年)によれば、中古を除き住宅を初めて購入した人の平均年齢は約38歳。仮に40歳で念願のマイホーム購入に踏み切ったとして、35年ローンを組めば、完済は75歳。60歳定年の前提にたてば、退職後15年間もローンの返済が続く計算になります。

現在は公的年金の受給開始年齢が65歳に引き上げられたことで、原則、希望者は引き続き定年後も働けるようになりましたが、再雇用された場合の賃金を定年到達時の賃金と比較すると、6割近くの人が1〜4割減となっています(*1)。さらに65歳以降は公的年金を満額受け取れるようになりますが、その金額は、夫婦(会社員と専業主婦モデル)あわせて、現役世代の半分程度の金額になる見通しです。

住宅ローンの返済は、こうした生活収入が先細るなかで、基本、現役時代と変わらぬ金額を支払いつづけていくことになるわけです。これって、じっくり考えると結構怖くありませんか?

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退職金の7割が消える?!

でも、意外と将来を心配する声は少ないように思います。おそらくは退職金≠フ存在があるからでしょう。でも、ここで冒頭の質問に戻りますが、退職金で完済すればいいと考える人でも、実際、退職時の住宅ローン残高がどのくらいで、退職金の何割程度の金額になるのかを把握している人は、意外と少ないように思います。

大卒の退職金平均は2156万円(*2)。一方で、40歳で3千万円の35年ローンを、2%の全期間固定金利で組んだ場合、60歳時点の残高は、約1500万円。退職時に完済すれば、退職金の7割近くが消え去る計算です。

変動金利や固定金利期間選択型を利用している人も多いでしょう。その場合、当初の適用金利はもっと低くなりますが、将来の金利動向に左右されるので、退職時の負債がどうなるかは誰にもわかりません。住宅ローンの返済期間は長いですから…。

老後に必要な資金は、「老後の全収入+それまでに蓄えた資金-老後の全支出」でざっくりと計算できます。平均寿命が延びるなか、老後の支出は今後も拡大していくでしょう。年金もなかなか期待が持てないなか、老後の生活設計をする上で、退職金の重要性はさらに高まっています。

一部を住宅ローンの返済にまわすにしても、その程度については慎重に考えたいところです。

*1 2008年高年齢者雇用実態調査結果の概況(厚生労働省)
*2 2013年就労条件総合調査結果の概況(厚生労働省)/勤続年数35年以上の定年退職者で「大学卒(管理・事務・技術職)」

こんなローンは要注意!

×「やれたらいい」
○「やらなきゃダメ」

こうしてみると退職金での完済計画は、どうも手放しで安心できそうにはありません。では退職後の生活に影響を与えそうな、要注意の住宅ローンとはどんな感じなのでしょうか?

下は、警報ランプが点滅しそうな住宅ローンの一例です。

インタビューで専門家の淡河さんが指摘しているとおり、老後の生活を見据えて、退職時の住宅ローンの残高を減らす方法としては、繰り上げ返済≠ェその王道といえます。ただ、働く日々にも支出はいっぱい、定期的な繰り上げ返済の原資を確保するといっても、実際にはたいへんです。あとから詳しく解説しますが、貯蓄が十分でないなら、無理せずに、資産運用で同じ効果を得る方法もあわせて考えたいところです。

いずれにせよ、退職後の住宅ローンとの付き合いに不安があるようなら、その負担軽減にむけた原資を捻出するしくみを、家計の中に組み込むことが大切です。できれば、住宅ローンの返済計画を立てる際に、その対応策をセットで考えておきたいところ。「やれたらいい」ではなく「やらなきゃダメ」くらいの、強い気持ちで臨みたいですね。

以降では、淡河さんのアドバイスの効果を、じっくり確認していきましょう。

大丈夫?ちょっと心配な住宅ローンの例

ホームローンドクター代表 淡河範明さん

おごう・のりあき

2006年ホームローンドクターを設立。創業以来5,000件以上の相談業務をこなす。テレビ出演や執筆活動など多方面で活躍。

最優先は生活資金の確保です

老後の生活設計にあたって、退職時の住宅ローン残高を確認することは非常に重要です。でも残念ながら、この点を具体的に把握されている方は少なく、実際にその金額を知って、驚かれる方も少なくないでしょう。働いて定期収入を確保できるうちに、退職後の生活に影響がでないよう、繰り上げ返済で、住宅ローン残高を減らしておくことが望まれます。ただ、同時に考えていただきたいのは、現役の生活においても、教育資金や万一の備えなど、一定の現金が必要だという点です。

繰り上げ返済は、住宅ローンの利息負担を減らす上で、大きな効果を発揮しますが、その利用は、生活に必要な現金を確保していることが大前提になります。具体的な金額はご家庭によって様ざまですが、利息の軽減効果や、借金から早く逃れたい不安心理にとらわれて、本来必要な現金までも、繰り上げ返済にまわしてしまうようなことは絶対に避けてください。

実際、消費税率の引き上げや、社会保障費の増加、インフレに伴う実質賃金の低下など、今後も家計においては、まとまった貯蓄の確保が難しい時期が続きます。その一方で、現在は住宅ローン金利が低位に推移している環境にあります。こんなときは、無理に繰り上げ返済をしなくても、同額を資産運用にまわすことで、手元に資金を置きながら、繰り上げ返済と同じ効果を得ることができます。

借金があって貯蓄がない状況は最悪ですが、借金がなく貯蓄もない家計も困りものです。要は借金(住宅ローン)と資産(貯蓄)のバランスを図ることが大切なのです。住宅購入の現場では、どうしてもローンの部分だけを見て、最も効果の高い負担軽減策を検討しがちですが、優先度は生活のための現金確保のほうが上です。

この現金があるのなら、生活のゆとりに応じて、積極的に繰り上げ返済していくべきでしょう。でも、そうでないなら、手元に現金を置きながら、繰り上げ返済と同じ効果を得る方法も検討してみてください。

繰り上げ返済でどこまで減らせる?

いつからどのくらい?

退職時の住宅ローンの残高が、その後の生活に大きな影響を与えそうなら、現役時代のうちに何らかの手を打っておく必要があります。一番手っ取り早いのは、通常の返済とあわせて、繰り上げ返済をすることでしょう。

さて…、ではどの程度の金額をいつから繰り上げ返済していけば、退職時に、その後の生活の負担にならない程度まで残高を減らすことができるのでしょうか?

左の図表は、40歳のときに、3千万円のローンを、期間35年、金利2%の全期間固定で組んだケースです。月々の返済額は10万円弱になります。このケースでは、60歳の時点で1500万円以上、65歳の時点でも1千万円以上の残高があることがわかります。

もちろんこのままでは、退職後も10万円弱の返済を続けていくことになります。

そこでローンの返済が始まってから、3年ごとに100万円を繰り上げ返済するケースを考えてみました。毎月2万7千円くらいを、通常の返済とは別に積み立てていく計算です。そうすると、返済期間は約9年縮まり、60歳時点の残高も830万円程度になります。期間が短縮された分、トータルの利息負担も、323万円、圧縮されます。

さらにがんばって、2年ごとに100万円と、返済のペースを速めた場合はどうでしょう? 毎月4万2千円弱を、通常の返済とは別に積み立てていく計算です。このペースでいけば、返済期間は約12年縮まり、60歳時点での残高は500万円を切っています。利息負担も、435万円、圧縮できます。63歳で完済できるので、退職金で一括返済するにしても、返済を続けるにしても、老後にそう大きな影響はなさそうです。

二度と取り返せません

ただ繰り上げ返済は一度返済してしまったら、二度と取り返せません。「やっぱりほかで使うから、繰り上げ返済したお金を戻して」といって、応じてくれる金融機関は皆無です。

繰り上げ返済は、利息の削減効果があり、返済額以上に総返済額が目減りするので、非常におトク感があります。それに借金が減っていくのは、感覚的にもスッキリした気分になりますよね。

この試算では期間を短縮していますが、利息削減効果は劣るものの、毎月の返済額を減らす方法もあります。効果とデメリットを比較して、無理のない範囲で、活用していくことが大切です。

その効果は?返さず貯める

近い効果を得て手元にお金も

住宅ローンの残高を退職時までに一定のレベルに下げたい場合、繰り上げ返済に頼らなくても、それに近い効果を得る方法があります。それは、繰り上げ返済する金額を、返済に回さずに、住宅ローン金利と同等以上の金利で運用するというものです。こうしておけば、繰り上げ返済と同じかそれ以上の効果、つまり利息負担額相当以上の運用益を確保できる一方で、お金そのものを手元に置いておくことができます。

下の図表は、先ほどの繰り上げ返済の例で比較した、3年ごとに100万円を繰り上げ返済した場合と、繰り上げ返済をせずに、その100万円を金利2%で運用した場合を比較したものです。現在の金利環境では2%なんて望むべくもありませんが、債券投資や投資信託などで近い成果を確保できたものと想定しています。

100万円が3年ごとに積み上がり、運用益とあいまって、繰り上げ返済をした場合の返済終了時にあたる26年目には、984万円の現金が手元に残っていることになります。

一方で、繰り上げ返済をしなかった場合の26年目の残高は981万円ですから、ほぼそれと同じ現金を、手元に置いておくことができていることになります。

手元にお金を置いておけるので、予想外の支出の際には、それを流用することができます。もちろん流用した場合は、その分、住宅ローン残高を減らすことができませんので、当初の目的を達成するにあたって、別の手立てを検討する必要があります。

また、ちょっと視点は変わりますが、住宅ローンを組む際、普通は、団体信用生命保険(団信)に加入します。あまり縁起の良い話ではありませんが、返済期間が長いほうが、保険のお世話になる可能性は高くなります。繰り上げ返済をすると、その分、現金も消えますし、団信利用の可能性も低くなってしまいます。

手元に現金を置いておくなら、運用してみませんか?

  • 投資信託についてはこちら

  • 国債についてはこちら

現在の金利環境はチャンス

この方法が繰り上げ返済よりも効果を発揮するためには、運用利回りが住宅ローンの借入金利を上回っている必要があります。

現在は金利優遇などで住宅ローン金利が非常に低い一方、国債や社債などで、それを上回る水準が期待できることから、メリットを享受しやすい環境にあります。

でも、もし住宅ローンの金利が上昇していった場合は、効果を得にくくなってしまいますのでご注意ください。

もしも返済で困ったら…

任意売却で前向きな一歩を

すでに退職して、今現在、住宅ローンの返済で苦しんでいる人もいるでしょう。老後の生活を見直しても、どうにも返済が難しくなってしまった場合、退職後にできる手立てには、どのような方法があるでしょうか?

代表的な手段としては、金融機関に相談して、返済期間を延長して、毎月の返済額を軽減してもらう方法や、元金の返済を据え置き、金利返済だけにして、一定期間の返済額を軽減してもらう方法があります。

ただ完済する年齢が75〜80歳と長期のローンを組んでいる場合、そもそも期間を延長する余力に乏しいでしょうし、一定期間の返済負担を軽減できても、年金生活の中では、その期間で生活を立て直すのも難しい話です。

ローンを滞納したままでは、いずれは競売となり、住まいを失った上、それでもローンが残っていれば、それを背負って生活を続けていかなければなりません。

でももし、家を持ち続けることに、こだわらないのであれば、任意売却≠ニいう有利な方法で、前向きな生活再建に踏み出せるかもしれません。専門家の高橋さんのインタビューとあわせて、もしもの備えとして、そのしくみを知っておいてください。

任意売却って?

退職後、住宅ローンの返済を続けていくことが難しくなった場合、お金を借りている金融機関との合意に基づいて自宅を売却する、「任意売却」という解決策があります。住宅ローンを組む際、金融機関は担保として購入した不動産に抵当権を設定し、住宅ローン利用者が返済できなくなった場合に備えます。住宅ローンを全額返済し、こうした抵当権などが解除されない限り、原則、自宅を売却することはできません。こんなときに、金融機関の合意を得て、債務を残したまま抵当権や差し押さえを解除してもらうのが、任意売却です。売却して得たお金を返済にあて、それでも債務が残った場合は、金融機関と相談の上、あらためて返済していくことになります。

法的手段である競売の場合、落札価格は市場相場の6〜7割程度になる事が多いようですが、任意売却は、市場相場の価格で取り引きできるので、一般には競売よりも、高い値段で売却できます。また競売の場合は、その全額が債権者(つまり金融機関)に引き渡されますが、任意売却の場合、住み替えや当座の生活資金相当を手元に残せる場合もあります。金融機関側でも、競売に比べて時間も早く、より多くの資金が回収できる利点があるため、近年では住宅ローンの滞納者に、任意売却を勧める傾向が広がっています。また、金融機関の合意を得るハードルは高くなりますが、親子間で任意売却する方法もあり、自宅を子どもにのこしたい場合などは、有効な方法です。どうしても長年住み慣れた家に住み続けたい場合は、任意売却の手法を応用して、自宅を投資家に購入してもらい、その投資家に家賃を支払う形で住み続ける方法もあります。

自宅を所有している限り固定資産税がかかりますし、マンションなどでは、管理費や共益費の負担が継続的に続くことになります。自宅を手放すことで、債務の負担を軽くし、さらに家計の固定費削減も期待できるので、任意売却は、生活再建の面で大きなメリットを備えています。

(主な注意点)

住宅ローンの返済が滞った場合の特例的な措置なので、正常に返済している人が任意売却を利用することはできません

債権者と条件面で合意できることが前提なので、必ず利用できるわけではありません

任意売却を行うと、民間金融機関の住宅ローンの場合、基本、団信契約は失効となります。任意売却後に残った債務を完済できずに債務者が亡くなった場合、その債務は相続財産の対象になり、相続放棄をしない限り、相続人に引き継がれることになります

幅広い目的にご利用いただけます!

  • 不動産担保ローンについてはこちら

シナジー・マネージメント/住宅ローン問題支援ネット代表 高橋愛子さん

たかはし・あいこ

日大卒後、5年間店長として、賃貸管理業、賃貸仲介業を行う中、任意売却の専門家としての道を歩むことを決意。2007年、住宅ローンの支払いに苦しむ債務者を対象に、任意売却を専門とした不動産コンサルタント会社、シナジー・マネージメントを設立。住宅ローンに関する様ざまな問題の全国無料相談窓口「住宅ローン問題支援ネット」を開設。年間300件以上の相談業務を行っている。任意売却の相談件数は8年で2,293件。

持ち家≠ノ縛られないで

1995年前後に30代後半から40代にかけて住宅ローンを組んだ人が、本格的に定年を迎えようとしています。当時は今ほど、「住宅ローン=借金」という意識が浸透しておらず、退職後の返済まできちんと気を配ってローンを組む人は、正直、少なかったように思います。一方、不景気が長く続いたことで、リストラや転職、減俸など様ざまな事情で返済計画が狂い、退職金でローンを完済できない、老後の貯蓄も確保できない、それでも、毎月10万円を超える長期の返済に苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。

実際、当社に寄せられる高齢者の方からの相談件数は、前年度比で3割以上増えており、とくに最近は急増している状況です。全国の住宅ローン残高は約180兆円で、うち破綻率は高齢者を含めて4〜5%、7〜9兆円にも達します。でも数字に表れない破綻予備軍は、実際にはその3倍程度はあるものと、私は推測しています。

一方、この世代の方は持ち家≠ノ対する思い入れが強く、生活が相当苦しくても、無理をして返済を続けるケースが少なくありません。2013年度に中小企業金融円滑化法が終了して以降は、金融機関の高齢者に対する返済支援も難しくなっており、競売で住まいを失う例も、件数は減少傾向にあるものの、毎年一定数、発生しています。

ただ競売は最後の手段であり、家を持つことに固執しないのであれば、任意売却≠ニいう方法で、競売よりも有利な形で債務を圧縮できるかもしれません。

その詳細は上の通りですが、金融機関との合意に基づいて自主的に債務を整理するので、精神的にも前向きに対応できますし、債務を減らして、残債も無理のない返済計画に組み立て直すことができるので、生活を再建できた方が数多くいらっしゃいます。

退職後の住宅ローンの返済で本当に困っているのなら、持ち家≠ノ縛られずに、任意売却という方法も、ぜひ検討していただきたいと思います。

(記事提供:ニッキンマネー2015年2月号 特集I)

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